2023/06/07 [会員コラム] 人とペットの自然なくらしをささえたい。 土井公明
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人とペットの自然なくらしをささえたい。         土井公明

どいペットクリニック2023年5月22日(月)午前中の診察レポート

14歳4ヶ月齢 チワワ 避妊メス。狂犬病予防接種にて来院、2ヶ月ほど前から急に足腰が弱り段差を登れなくなった。BW4.54kg(3ヶ月前から320g減) 、踏み直り反射両後肢遅延、全身性筋肉量減少、歩行できるが後肢のスピードが極めて遅い、疼痛なし、腹部触診では腫れや異物感なし、聴診正常、粘膜色正常。顔相や行動含め急に老け込んだ。3ヶ月前の混合ワクチンの診察にて、「この子はいつまで経っても若々しいね」といっていた矢先の変化。
年齢的には内臓疾患の疑いもあるので血液検査してみる?それとも、とりあえず、こういう症状(サルコペニア・フレイル)に効く薬使ってみる?とテルミサルタンのインフォームドコンセントしながら飼い主に問う。回答は後者。セミントラ®️0.5mg/kg SID POで1ヶ月分処方。投薬の反応見て検査を予定することに。いい反応が得られればこのまま投薬だけで余生を看ることになるかもしれない。
疾患の確定をしてからの投薬がセオリーではあるけれども、臨床症状や飼い主さんとのやり取りの中で治療方針を決めていく診療も高齢動物の治療の選択肢にはありだと思う。
あ、今度今治でARBの発表するんだった。投薬前動画撮ればよかった。まぁ、いいか。

次の患者さんも狂犬病予防接種で来院。卒後30年来の付き合いになる女性の飼い主さんで、犬は3頭目で安定の8歳。仕事柄細身の人だが、土色で血色が良くない上にさらに痩身になっている。こちらから遠慮なく「顔色良くないじゃん、調子悪いの?」と言葉がけする。
すると、母親がヨーグルトに味噌をかけるほど認知症が進んでいること、またなんでも与えるので犬が太らないように注意してフードを減らしていること。
そんな日常の中で自身が重い病気になり現在も治療中であること、仕事は翌々月にイベントがあり休めないこと、自分が急に入院した場合に母親は施設などなんとかなるが犬の目処が立たないこと、考えたり相談することが多いのに体力的時間的にできず困り果てていることなど、出るわ出るわ抱える不安が口をついて出てきた。
こちらは聞きながら狂犬病予防接種を終える。ここから開業獣医師としての私の仕事の本分が始まる。母親の相談については市役所の健康福祉課を勧め、仕事は頼める知人にお願いしよう、困った時の犬の処遇についてはうちが面倒をみるし費用も心配しなくても大丈夫、認知症のお母さんは犬との生活が安定の鍵になっているから親族宅に一緒に行く方が症状の悪化が防げるかもしれない、隣県なら連れていくのはできるから何かあれば連絡して、などなど。一つひとつ解決の道筋を考えて、まずは飼い主さん自身が治療に専念できるようにしようよ、というところまで話をしていくと随分と気が楽になった顔になり、診察室を出る段になりやっと笑みがもれた。

飼い主さんのフレイルが飼育動物のフレイルにつながる。それぞれの飼い主さんと会い、話して、共に考えて、動物を未病に導く。この作業はPricelessである。そして、間違いなく臨床獣医師のすべき仕事である。きっと先達の臨床獣医師も当たり前にこの作業をしていただろうし、今後も変わらないであろう。
M先生曰く、当たり前のことを新しい視座で物事を考えることが学問の進歩(真に独創的な頭)だと。確かに、でも難しいねぇ。明日からも目の前に起こる一つひとつに向き合って頑張ろう。