2023/11/19
動物看護の視点からフレイル・サルコペニア予防を考える 佐伯香織

動物看護の視点からフレイル・サルコペニア予防を考える
佐伯香織

高齢動物のケアは難しい!!
私の心の声ですが、きっと高齢期を迎えたペットと暮らす飼い主さんも日々実感していることだと思います。あれはいや!これもいや!と性格は頑固になり、嗜好性も変化していきます。筋力や筋量の低下に伴い、排泄時に踏ん張りがきかない、フローリングで滑るなど若い頃と同じように動けず、自身でできることが少なくなり、だんだん活力は減っていきます。

ますます高齢化が進む現在、このようなペットの変化を目の当たりにする飼い主さんと動物達のモチベーションが下がらないよう、維持ないし上向きにするためのサポートが我々には求められます。さらには、獣医療の高度化や時代の流れとともに、ペットに対する考え方や飼い主さんの価値観は多様化しています。それゆえ、われわれのサポート内容も飼い主さんの意向や希望に沿うだけではなく、「その子」といった個別性の視点を重視したものがこれまで以上に必要となってきました。

動物病院に来院する高齢の動物をケアするとき、われわれは彼らが「今」できないことに着目し、どのように介入したらその問題が解決できるのか?飼い主さんにどのような援助を提案したら問題解決に向かうのか?といった「問題解決型アプローチ」の考え方でケア方法を計画し、実践することが多いのではないでしょうか。
しかし、歳をとると食事、運動、排泄など問題は多方面から自然と出てきます。だからこそ高齢期を迎える動物のケアでは、できないことに着目した問題解決型アプローチだけではなく、その子がもっているチカラ(潜在力)を十分に引き出すための視点と早期介入・支援が必要であり、飼い主さんと共に歩むこれからの人生に向けて「目標志向型アプローチ」で関わり、環境を整えることが大切であると感じます。

近年、医療の現場では「入院関連サルコペニア」という言葉が用いられるようになりました。これは加齢に伴う身体的機能低下ではなく、疾患や入院中の低活動、低栄養に関連して生じるサルコペニアと定義づけられています。獣医療現場では、まだこのような概念は浸透していません。しかし、実際には多々生じている現象であると私は考えます。
退院時「入院前より立ち上がりが少し悪くなった気がする」「筋肉が落ちた気がする」そのような言葉を飼い主さんから耳にすることはないでしょうか。
疾患に伴う過度な安静、口元へ食事や水を運ぶなどの過度な介助、立ち上がり時の不必要な介助など、思い返してみると、その子がもっているチカラを十分に引き出すよりも先に、必要以上に介助している場面を思い浮かべます。入院中のケアは、動物看護師が実施する機会が多くなります。そのため、これからはフレイルやサルコペニアの知識をしっかり持ち、予防に向けた新たな介入と飼い主支援・教育を実践する必要があります。
われわれ獣医療従事者がよかれと思って実施しているケアで、患者動物と飼い主さんが不利益を被ることは最小限にすべきです。

このような研究会が発足し、多くの方々へサルコペニアやフレイルの情報発信ができること、さらにはそれぞれの立場で情報共有ができることに喜びを感じつつ、「高齢だから多少の身体機能の低下はやむを得ないよなぁ」の考えは捨て、動物看護の視点から改めてアセスメントしてみることから始めていこうと思います。