2023/07/03
[会員コラム] 炎症はフレイルのカギを握るか? 木村展之

                 炎症はフレイルのカギを握るか?

  認知症関連のシンポジウム企画を任されたこともあり、6月12〜14日に横浜で開催された第12回IAGGアジア/オセアニア国際老年学会議(IAGG-Asia Oceania Regional Congress2023; IAGG2023)に参加してまいりました。老年医学領域の研究者(主に医師)が集う学会ですので、メカニズム解明を目的とする基礎研究よりも、ヒトを対象とする疫学研究の発表が主流ですが、いくつか面白い発表がありましたので紹介したいと思います。

まず、以前から指摘されているサルコペニアと炎症性サイトカインとの関係についての発表が数多く行われていたのが印象的でした。ただ、必ずしも全ての炎症性サイトカインがフレイルの発生と相関性があるわけではなく、中には相関性が認められなかった因子も存在するため、炎症がフレイルの原因なのか結果なのかという議論は今後も続きそうな気がします。この問題はやはり、前向きの追跡調査研究で白黒つけるしかないのではないかと感じました。

一方、高齢者の血中で高い濃度を示すことが知られているgrowth differentiation factor 15 (GDF15)について面白い発表がありました。GDF15はミトコンドリアに機能障害が生じると細胞から大量に分泌されるため、ミトコンドリア病の診断マーカーにもなっているのですが、GDF15の血中濃度は骨格筋の筋力と相関性があり(GDF15濃度が高い=筋力が低下している方が多い)、身体性フレイルであるサルコペニアとの関係性が強く示唆されました。直接的なデータが示されていたわけではありませんが、GDF15がミトコンドリア機能障害によって細胞外へ分泌される因子であることから、老化に伴う慢性炎症が骨格筋の細胞傷害を引き起こしているのではないかという考察でまとめられていました。

ヒトも伴侶動物も高齢になると腎不全罹患者が増加しますが、過活動膀胱とフレイルとの関係についても面白い結果が示されていました。過活動膀胱は頻尿の原因となり、夜間に目が覚める=睡眠の質を著しく低下させる疾患ですが、過活動膀胱罹患者と健常高齢者を比較した結果、フレイルの発生率がオッズ比2.78という高い値を示すことが明らかとなりました。  ただ、過活動膀胱の発症要因として高血圧(27.4%)、高脂血症(25.7%)、肝および消化管疾患(32.8%)、糖尿病(32.1%)といった様々な代謝性疾患が挙げられていましたので、要はこれらの生活習慣病が回りまわってフレイルを引き起こす原因となると考えられます。   とりわけ、糖尿病(おそらくⅡ型がほとんど)は全身性に慢性炎症を引き起こすことがげっ歯類でも確認されていますので、やはりフレイルの背景に炎症が存在することは間違いないのかなという印象を受けました。

その他、個人的に目を引いたのは、フレイル判定を受けた高齢者と健常高齢者を追跡調査した結果、要介護状態(寝たきり状態)になった発生率に変化はなかったものの、要介護状態になってからお亡くなりになるまでの期間がフレイル判定者で有意に短いというデータでした。つまり、フレイルは必ずしも要介護状態に直結するわけではないが、一度要介護状態になったら加速度的に生体機能が低下すると言えます。これは今後、伴侶動物においても追跡調査が必要になってくるのではないかと考えます。(文責:木村展之)